「地域をあたためる技術」で未来をつくる
取材日:2025年9月4日
ライター:鈴木剛/福光中学校2年生2名、吉江中学校2年生1名
【関連するSDGsのゴール】

株式会社西村精工×中学生「14歳の挑戦」
冬の足音がすぐそこまで迫ってきた南砺市。この町には、人と地域をあたためるものづくりに取り組む企業があります。それが、福光地域で半世紀以上にわたり板金や溶接の金属加工を行う株式会社西村精工です。
確かな技術と丁寧な仕事で地域から信頼を集めています。
今回は、福光地域の中学生3人の生徒さんと共に同行し、南砺市の教育プログラム「14 歳の挑戦」で、初めてのインタビュー取材と記事作成に挑戦してもらいました。

テーマは「SDGsと地域の仕事」
金属の火花が舞う現場で、技術で地域をあたためるという想いに触れてきました。
金属加工の現場で見た“技術の力”
工場に入ると、鉄を溶かす光と熱の迫力に生徒さんたちは思わず息をのみました。
「火花がすごい!」 「これが一枚の鉄からできているなんて!」
現場を案内してくれたのは、専務取締役の西村さんと営業課長の安田さん。
「私たちの会社は溶接や板金加工を通じて、車やバイクの部品、コンビニの棚など多様な製品を製造しています。近年は地域内での資源循環を意識し、地域の暮らしを支えるためにペレットストーブの製造にも取り組んでいます。」
溶接の技術を生かして生まれたペレットストーブは、火が灯ると鉄の本体から柔らかな炎がゆらめき、体だけでなく心までも温めてくれます。

ペレットストーブを始めたきっかけ
西村精工さんがペレットストーブに興味を持ったのは、南砺の冬の寒さと地元の森林資源がきっかけでした。
「冬になると、石油やガスなどの燃料に頼りきりになる。しかし南砺には、山から出る間伐材や木くずなど、まだ活用できていない木がたくさんあります。それを地域のエネルギーに変えられたら、環境にも地域にもやさしいと思ったんです。」
溶接・板金加工の技術を活かし、自社で燃焼構造や外装を工夫して製作。試行錯誤を重ねな がら、使いやすく安全なストーブを目指しました。
この挑戦は、再生可能エネルギーの利用 (SDGs目標7 「エネルギーをみんなにそしてク リーンに」)、そして地域資源の循環 (目標15 「陸の豊かさも守ろう」) につながって います。

木のエネルギーで人と地域をあたためる
ペレットストーブは、木を原料とする“木質ペレット”を燃料としています。
木を燃やすと二酸化炭素(CO2)が発生しますが、その木が育つ際に吸収したCO2とほぼ同じ量であり、地球全体では増えないとされています。これが「カーボンニュートラル」という考え方です。
「地域の木を燃料にして、地域のみなさんの暮らしをあたためる。エネルギーを地域内で循環させることで、環境負荷を減らせます。」
また、木の炎のやわらかなぬくもりや空気の乾燥しにくさも魅力の一つです。
「お客さんからは『体の芯からあたたまる。炎を見ていると落ち着く』という声をいただきます。南砺の寒い冬を快適に過ごすにはぴったりなんです。」と西村さんは語ります。
心身の健康に寄与するこの製品は、SDGs目標3 「すべての人に健康と福祉を」にも通じ ています。

メリットと課題も、地域とともに
学生さんがしたインタビューの中で、安田さんはペレットストーブのメリットとデメリット も率直に話してくれました。
「いいところは、地域の木材を無駄なく使えること。そして、炎のぬくもりで心も体もあた たまることです。しかし一方で、ペレット燃料の補充や灰の片付けといった手間はかかります。」
また、ペレットストーブの認知度や燃料の安定供給、価格の問題なども今後の課題だといいます。「ペレットを作る人、使う人、運ぶ人。そのすべてが地域の中で回るようにしていけたらいいですね。もっと公共施設などにペレットストーブの設置が増えれば、環境にも経済にもプラスになります。」と安田さんは語ります。
こうした言葉に対して、生徒たちはうなずきながらメモを取り続けました。「エコな取り組みというのは、便利さよりも“つながり”を大事にしているんだと感じました。」と、取材後に話してくれました。

働く人の誇りとやりがい
工場で働く職人さんたちは、一人ひとりが自分の仕事に誇りを持っています。
「鉄は正直です。丁寧に扱えば、必ずいい形になります。」また、「図面どおりに仕上がって、お客さんのもとで動いているのを見ると、本当にうれしいです。」と語ります。
「誰かの役に立つ製品をつくることが、自分のやりがいにつながる」と話す姿に、生徒たちは「働くことの意味」を感じ取ったようでした。

地域とともに燃やす、未来への炎
西村精工では、これからも地域の資源を活かしながら環境にやさしい製品づくりを続けていきます。ペレットストーブのように、地域の技術で地域の課題を解決していければ、未来は明るく楽しいものになると西村さんは話します。
その言葉には、「技術は人を幸せにするためにある」という信念が込められています。燃やすのは木のペレットだけではなく、人の想いと情熱です。
南砺の冬をあたため、地域の未来を照らす小さな炎。それは、確かな技術とまっすぐな志で燃え続ける西村精工の心の火でもあります。
㈱西村精工ウェブサイト
㈱西村精工が製造するペレットストーブはコチラから
インタビュアー感想
鈴木 剛(地域おこし協力隊OB)

はるか昔から人の暮らしと共にあった火の温もり。IHや電気製品が一般的となった昨今、火を見る機会が激減したように思う。木を原料とする熱源は体を芯から温め、炎の揺らめきに心を癒される時間が現代人には必要なのではないかと思う。板金溶接を福光地域で続けてこられて循環型社会の実現に向けて走り続ける西村精工。今回は地域の中学生と同行し自分自身も良い学びがあったが、中学生にはインタビューから記事作成など、多岐にわたり初めての経験だったと思う。彼らにとっても貴重な経験になったのではと考えている。
