子どもたちの「自分らしく」を支える。
地域にひらかれた、もうひとつの学びの場
取材日:2026年9月4日
インタビュアー:福光地域の中学2年生3名
インタビュアー兼ライター:德田琴絵(南砺市アンバサダー)
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ユニセキベース×中学生「14歳の挑戦」
南砺市井波で、オルタナティブスクール「ひとつ」を運営するユニセキベース。「ひとつ」は、2025年5月に開校した、HSC(Highly Sensitive Child)と呼ばれる、ひといちばい敏感な気質を持つ子どもたちを対象とした「もうひとつの学びの場」です。安心できる環境のなかで、一人ひとりのペースを大切にしながら学び、自分らしく過ごせる場をつくっています。
今回は、福光地域の中学生3名が、市の教育プログラム「14歳の挑戦」の一環として「ひとつ」を訪問。ユニセキベース代表の野村 功美子さんへのインタビューに挑戦しました。

「まずは、ここなら大丈夫」と思える場所に
室内には、「おはなしキッチン」「おちつきルーム」など、子どもたちが手づくりした看板が並んでいます。そこで何をするかは大人が決めるのではなく、子どもたち自身の「ここではこんなことをしたい」という思いから、少しずつ場所がつくられてきました。

この日も、工作ルームでは紙粘土でつくったキャラクターを使い、オリジナルストーリーの動画を制作中。作品からは豊かな感性が伝わってきます。

「ひとつ」が大切にしているのは、何かが「できるようになる」ことよりも、まず安心して自分らしくいられること。野村さんは「『安心基地』という言葉を使っています」と話します。HSCの子どもたちは、音や光、人との関わりなど周囲から受ける刺激を強く感じることがあります。学校では頑張っていても、帰宅するとぐったりしてしまったり、身体に不調が表れたりすることもあるそうです。
「学校に行かなきゃいけないことは子ども自身も分かっている。でも、もう身体が動かないというところまでいってしまうこともある。だからまずは、『ここなら大丈夫』と思えることが大事なんです」
安心できる場所があるからこそ、少しずつ「これが好き」「やってみたい」という気持ちが生まれる。その気持ちを待ち、対話を重ねながら学びにつなげていくことが、「ひとつ」のスタイルです。
一枚の絵から始まった「ひとつ」
野村さんが「ひとつ」をつくろうと決めた背景には、息子さんとの経験があります。
現在小学5年生の息子さんはHSCの気質があり、小学校入学後、学校に通うことが難しくなりました。2年生頃から少しずつ登校できるようになり、野村さんと一緒に学校内の別室で過ごした時期もあったといいます。
そんなある日、息子さんが黒板に一枚の絵を描きました。
「天空に雲みたいな教室があって、そこへ鳥が運んでくれる。みんなが一緒に安心して過ごせる場所をつくるんだって、絵を描きながら私と先生に話してくれたんです」
そこに描かれていたのは、息子さん自身が思い描いた「安心して過ごせる場所」でした。その絵を見て、野村さんは、息子さんが求めているのは、ただ学校の別室で過ごすことではないのだと気づきます。
「友達と過ごしたり、いろんな経験をしたり、安心して自分らしくいられる場所が欲しいんだ、と。だったら、私がつくろうと決めたんです」
それが「ひとつ」の始まりでした。
立ち上げを支えたのは、家族や医療、学校、地域の人たち。現在は5人の運営メンバーに加え、5人ほどの見守りサポーターも活動しています。
「1人では絶対にできませんでした。南砺市には、悩んだり苦しんだりしている子どもや保護者に寄り添いたいと思っている人が、たくさんいたことが大きかったです」

「やりたくない」と言えることも、大切な学び
「ひとつ」での過ごし方は、一人ひとり異なります。学校の教材やタブレットで学習する日もあれば、工作やアート、料理、地域の企業での仕事体験、遠足や社会見学に出かけることも。その日の活動を大人が一方的に決めるのではなく、「今日は何をしたい?」「次はどこへ行ってみたい?」と、子どもたちと話し合って決めます。
「HSCの子は一人で過ごすのが好きだと思われがちですが、友達と一緒に何かをつくったり、活動したりすることを求めている子も多いんです」
一方で、大人数の中では周囲に合わせることを優先し、自分の気持ちを言えなくなることも。だからこそ「ひとつ」では、「今日はやりたくない」と言えることも大切にしています。
「『やりたくない』と言えるようになったことも、大きな変化です。『そう思っているんだね』と受け止めてもらう経験が、自分の気持ちを伝えることにつながると思います」

地域との出会いが、「好き」につながっていく
「ひとつ」が大切にしているもう一つの特徴が、「地域全体を教室にする」という考え方です。
少人数だからこそ身軽に出かけられる利点を生かし、地域の企業やさまざまな場所を訪ねながら、仕事や暮らし、人との出会いを学びにつなげています。
高岡市のクローバーファームさんでは、酪農を体験しました。牛の乳搾りや牛舎の清掃をするだけでなく、「なぜこの作業が必要なのか」まで一つひとつ丁寧に教えてもらったそうです。最近では、地域の企業側から「一緒に活動しませんか」と声をかけてもらう機会も増えています。
「いろいろな体験を通して、『これは自分が好きなのかな』『これはちょっと苦手だな』と、自分自身を知っていくことも大切です。それと同時に、自分が暮らしている地域がどんな場所なのかを知ることにもつながります」
地域の人たちに受け入れてもらい、さまざまな経験を重ねるなかで、子どもたちからは「ここが好き」「みんな優しい」という言葉も聞かれるようになりました。
以前は、日中に公園やスーパーへ出かけると、「学校は?」と聞かれることが怖く、隠れるように過ごしていた子どももいたといいます。それが、「ひとつ」の活動を通して地域の人と出会い、自分たちを応援してくれる人がいることを知ったことで、少しずつ変わっていきました。
地域とのつながりが増えることで、「自分たちはここにいていい」と思える。その安心感が、また新しい「好き」や「やってみたい」につながっていきます。
HSCへの理解を、地域に広げていく
HSCは病気や障害ではなく、生まれ持った気質です。野村さんによると、HSCは5人に1人ほどの割合でいるとされています。
「『気にしすぎ』に見えることもあるかもしれません。でも、本人にとっては実際に強く感じていること。人の気持ちに気づいたり、小さな変化を感じ取ったり、一つのことを深く考えたりできることも、その子が持っている大切な力なんです」
HSCについて知る人が増えることは、子どもたちを取り巻く環境を考えるうえでも大切です。ユニセキベースでは、子どもたちだけでなく、保護者や学校の先生、保育園、地域の習い事など、子どもに関わる大人を対象とした講演活動も行っています。
「支える大人も、どうしたらいいのか分からないという不安があります。子どもだけではなく、支える大人の不安も少し軽くできたらと思っています」
現在は小学生を中心とした「ひとつ」ですが、今後は中学生や高校生も安心して学べる場へと広げていきたいといいます。
「南砺市には、オルタナティブスクール『ひとつ』もあるよね、と普通に言われるようになりたいです」

一人ひとりの違いを受け止められる地域へ
最後に、野村さんは地域への思いを語ってくれました。
「子どもたちは一人ひとり本当に違います。学校で力を発揮する子もいれば、学校とは違う場所で力を発揮する子もいる。大切なのは、どこにいるかではなく、その子が安心して自分らしく成長していけることだと思っています。
『ひとつ』だけでは、子どもたちを支えることはできません。家族、学校、医療、地域の方、企業や団体など、いろんな人が少しずつつながることで、子どもたちの選択肢は増えていく。
学校に行けなくても、社会から離れているわけではありません。地域の中に、自分を知ってくれている人がいる。応援してくれている人がいる。子どもたちがそう感じながら育っていける地域を、みなさんと一緒につくっていきたいです」
「安心して自分らしく学べる場所」をつくること。そして、その場所を地域にひらいていくこと。「ひとつ」の取り組みは、一人ひとりの違いを受け止めながら、誰もが自分らしく過ごせる地域をつくることにもつながっています。
子どもたちの声に耳を傾け、その子らしい学び方や過ごし方を知る。まずは身近なところから理解を深め、できることを考えてみる。その積み重ねが、誰もが安心して暮らせる南砺の未来につながっていくのかもしれません。

あとがき
中学生3名が「ひとつ」を訪れ、野村さんの話や子どもたちの様子、作品に触れるなかで、それぞれに新たな気づきが生まれたようです。
「HSCの敏感さは、その子ならではの強みでもある」「誰かと比べるのではなく、その人自身の歩みを大切にしたい」「子どもたちの細かな表現の絵に驚いた」という声もありました。
今回の取材で学んだのは、HSCについての知識だけではありません。一人ひとりの感じ方やペースの違いを知ることが、相手を理解する第一歩になるということ。この出会いが、身近な誰かの「違い」に目を向けるきっかけになったのではないでしょうか。

